五十肩南大阪鍼灸所
五十肩について
「五十肩」とは50歳代でよく起こる肩の痛みですが、実際には40歳代でも60歳代でも起こることがあります。なぜ起こるのかははっきりと分かっていないのですが、加齢で肩の組織の柔軟性が低下して、傷つきやすくなっていることや、肩の血流が悪化することが関係しているとされています。
五十肩が起こる仕組み
肩関節は、「関節包」という薄い膜で覆われています。五十肩では、まずこの関節包に炎症が起こります。炎症は筋肉と骨をつなぐ「腱」や骨と骨をつなぐ「靭帯」、「筋肉」などのまわりの組織に広がっていきます。
関節包に炎症が起こると、激しい痛みが現れます。痛みが治まり始めたころ、肩の動きが悪くなります。これは、関節の動きを滑らかにする「滑液」をつくる「滑液包」や関節包が、硬く小さくなるためです。
五十肩は、一般に自然に治りますが、強い痛みや肩が動かしづらい症状には医療機関での適切な治療が必要です。五十肩の検査には、エックス線検査やMRI(磁気共鳴画像)検査などがあります。
五十肩には、「急性期」「慢性期」「回復期」の病期に分けられ、それぞれの治療法が異なります。
五十肩のチェック法
次のような症状があれば、五十肩が疑われます。
- ・昼も夜も激しく痛む
- ・どの方向に動かしても痛い
- ・肩を動かせる範囲が狭くなった
- ・一定期間たったら痛みが治まった
●可動域(動かせる範囲)のチェック
・両手を上に上げる
真っ直ぐに前に伸ばした両腕を、上へ上げていく。肩を上下にスムーズに動かせるかどうかを確かめる。
・手を背中で組み、上へ上げる
両手をお尻のあたりで組んで、そのまま背中に沿って手を上に上げていく。肩を後ろへスムーズに動かせるかどうかを確かめる。
(注)痛みがきついときは、無理にしないようにしましょう。
急性期の治療
発症から約2週間の急性期は、痛みが強く、肩を動かすと痛みが起こります。ある程度は肩関節を動かせるのですが、この時期は安静にして患部を冷やすことが大切です。痛みが激しい場合は、三角巾で肩を固定する方法もあります。ポケットに手を入れると肩にかかる腕の痛みが軽減されて、少し楽になることもあります。
●痛みを和らげる
痛みが激しいときは、「消炎鎮痛薬」を使います。消炎鎮痛薬には、湿布薬や塗り薬などの外用薬と内服薬があります。それでも痛みが治まらない場合は、肩関節に直接「局所麻酔薬」と「ステロイド薬」を混合したものを注射することもあります。
慢性期の治療
発症後、2週間目から6か月目くらいまでの慢性期には、痛みが治まり始めますが、肩関節は動かしにくくなります。そのまま動かさずにいると肩を動かせる範囲が狭くなるので、無理のない範囲で少しずつ動かすことが大切です。
肩関節を動かしやすくするには、肩を温めて血行をよくすることが効果的です。お風呂にゆっくり入ることなどで肩を温めると、痛みが和らぎ、肩を動かしやすくなります。
●ヒアルロン酸の注入
慢性期は、関節包や滑液包が硬く小さくなり、滑液の分泌量も減ってしまいます。肩関節が動かしにくい場合は、「ヒアルロン酸」を肩に注入する治療を行うこともあります。
ヒアルロン酸は、肩関節の動きを助けるとともに、炎症を抑える役目も持っています。もともと関節の中などに存在する物質ですから、体内に入れても副作用はほとんどありません。これを関節に注入することで、肩関節が動かしやすくなります。
回復期の治療
一般に、発症から6か月ほどたつと、痛みがほとんど治まる回復期に入ります。回復期でも、肩をきちんと温めて血行を悪化させないようにしましょう。また、痛みを起こさない程度に積極的に動かすことが大切です。
肩が動かしづらい状態が長く続く場合、ごくまれに手術が行われることもあります。手術により、硬くなった靭帯を切り離すことで、肩の動きを取り戻すことができます。しかし、慢性期や回復期にきちんと動かすことで、ほとんどの人は手術を受けなくても治ります。
五十肩の予防
五十肩は、肩の血行が悪くなると発症しやすくなります。予防のためには、肩を冷やさないようにして、適度に動かすことが大切です。特に夏は、薄着になったり冷房を使ったりすることが多いため、室内ではカーディガンを羽織るなどして肩を冷やさないように気を付けましょう。
また、ストレスなどの精神的な緊張が続くと肩の血行が悪くなります。五十肩は、急に肩に衝撃が加わったり、ストレスがたまっているときに発症しやすい傾向があります。ストレスをためないように、ときどきの気分を転換するようにしましょう。
鍼灸治療では
肩がものすごく痛くなり、動かせなくなってしまう五十肩の患者さんは鍼灸院でもよく診ます。やはり40歳代の人もいれば、70歳を過ぎた方も来られます。ちなみに「五十肩」というのは病名ではなく、総称のようなもので、医学の教科書などでは「いわゆる五十肩」などと書かれています。別の言い方では「肩関節周囲炎」といわれており、肩関節のまわりの組織(筋肉、腱、靭帯、関節包など)に炎症が起こり、激しい痛みが出てきます。
治療の基本的な考え方
五十肩とは、本当に痛みがつらく、患者さんは大変な思いをされます。特に痛みで夜も眠れない時などは、気が滅入ってしまいます。しかし、五十肩というのは1年ほどたつと自然に治まってくるものです(人によっては治癒までに2年以上かかることもあります)。痛みでつらいときは「一生このままだとどうしよう」などと考えてしまいますが、まずは自然に治るものだということを頭に入れておきましょう。あらかじめ病気についてわかっていれば、少し心も落ち着くものです。
それでは、自然にどんどん良くなっていくのかというとそうでもありません。五十肩はある程度決まったパターンをたどってよくなっていきます。まず最初は「急性期」が2週間ほど続きます。肩は動くのですが、激しい痛みが続くのが特徴です。この急性期を過ぎると「慢性期」に入ります。これは2週間目から半年くらい続くもので、痛みは少しずつマシになるのですが、肩が動かしにくくなります。最後は「回復期」です。痛みはほとんどよくなり、肩も少しずつ動かせるようになってきます。
治療の考え方としては、この3つの病期がなるべく早く過ぎるようにしていきます。治療をしない場合、急性期・慢性期・回復期を合わせると治るまでに1年かかるとするならば、治療をして、より早く治るように目指します。しかし、多くは半年以上かかることもあるので、1~2か月で治ることは少なく半年以上治療を続ける意思を持つように説明しています。しっかりと治療を継続して、少しでも早くよくなるようにしていきましょう。
急性期に対する治療
急性期は痛みが強く、肩を動かしたときに痛みが出ます。この時期はあまり動かさないほうがよいでしょう。鍼灸治療では主に痛みをとるための治療をしていきます。
急性期は局所である肩にも鍼をしますが、あまり刺激が強いと痛みがきつくなることもあるので、軽めの刺激を加えて痛みがマシになるようにしてきます。このときは「皮内鍼」がいいでしょう。皮内鍼とは、1~2mmの短い鍼を皮膚に対して並行に沿わして入れていきます。鍼を刺した後にはテープで固定します。鍼が体内に入るような心配はありません。このように短い鍼を少し皮膚に入れるだけなので、ごく軽い刺激で済むのですが、非常に効果が高く、痛みを軽減してくれます。鍼は1週間ほどは入れたままにしておけるので、その間も治療効果は続きます。ツボでいえば「肩髃(けんぐう:肩関節の前方のくぼみ)」や「肩井(けんせい:肩関節と頚椎の中間)」などが効果的です。また、腕の方のツボも一緒に使用すると肩の痛みを抑える効果が高まります。「手三里(てさんり:肘を曲げてできるシワの外端から指3本分下のところ)」などがいいでしょう。
人間というのは不思議なもので、痛みを抑えると無意識に腕を使ってしまいます。例えばカバンを痛い側の腕で持ったり、物をとる動作などをしてしまいます。しかし、鍼をして痛みが落ち着いていても五十肩が治ったわけではありませんので、腕を使ったことによってまた痛みが出てしまいます。治療をした後は、無意識に腕を使わないように注意しておきましょう。
慢性期・回復期について
急性期を過ぎて、慢性期に入ってくると少しずつ痛みがマシになってきますが、腕が動かないようになってきます。このころになると、鍼の刺激はもう少し増やしても大丈夫になってきます。慢性期と回復期はそこまで治療の仕方に大きな違いはありません。基本的には痛みが残っていればそれを軽減する治療をしながら、動かしにくくなっている肩関節の可動域を広げる治療をしていきます。
慢性期に入ると、肩関節を温めて血行をよくしていくことが大切です。血行をよくすると、痛み物質が処理されやすくなり痛みの軽減にもなりますし、動きの悪い組織をゆるめることで可動域が広がります。そこで、治療には「灸頭鍼(きゅうとうしん)」というものを使用します。この灸頭鍼というのは、鍼を刺して、その鍼の先の持ち手の部分にもぐさを付けて温めていく方法です。もぐさと皮膚の距離は離れているので、灸の痕がつくことはありません。そのため、通常よりも大きなもぐさを使用することができ、よく温めることができます。灸で温めると、温め終わった後もポカポカと温もった感じが続きます。これは赤外線などで温めても得られない、灸独特の効果です。
使用するツボは、その時の状態を診ながら決めていきます。上記の「肩髃」や「肩井」、「手三里」も使用することがあります。そのほかでは、「天宗(てんそう:肩甲骨の中央)」も非常に効果が高いです。この天宗は肩のこりなどでもよく使うツボなのですが、五十肩にも使用します。天宗に鍼をすると、肩の前方の方に響く感じがします。この響く感じを出してやると、肩の動きがよくなることが多いです。また、肩の動きは肩甲骨の内側(肩甲間部)の筋をゆるめることでもよくなります。ここにも鍼をしていきます。また、この肩甲間部をゆるめるツボとして変わったところでは、「神門(しんもん:手首のしわの端で、小指側のところ)」があります。この神門に鍼をすると、肩甲間部が緩んで、肩を上げやすくなります。
また、回復期に入ると積極的に動かした方が治りが早くなります。そのため、鍼灸治療を続けながら運動療法をしてもらいます。やり方は簡単で、500mlのペットボトルに水を入れて痛い側の手に持ちます。体の正面にイスなどの台を置き、反対側の手で体を支えながら、手に持ったペットボトルをブラブラと揺らします。その際、体は地面と水平になるように腰を曲げて行います。この運動は肩関節の可動域を広げる効果があります。注意点としては、筋トレではないので無理に力を入れないことです。自然にブラブラさしていると、重力で肩関節が広げられます。